尼崎市立休日夜間急病診療所が開設されました(第671号 令和7年11月1日)
2025/12/01(月)
救急・災害医療担当理事 新藤 高士
週間天気予報が一日ずれて、11月1日は前日の雨が上がり晴天となった。尼崎市西難波町の市役所南側に新築された尼崎市立休日夜間急病診療所では午後2時から開所式が行われた。松本眞市長、吹野順次副市長、県議会議員6名・市議会議員11名、杉原加壽子会長を含む医師会関係者12名、その他医療関係者、近隣市町職員など総勢51名が出席した。松本市長の式辞のあと、杉原会長、眞田泰秀市議会議長、八田昌樹兵庫県医師会会長から来賓祝辞が述べられ、この4名に吉岡靖史急病診療所所長を加えた5名によるテープカットで無事に開所式は終了した。
医師会が「尼崎市への要望書」において急病診療所の建替えの要望を開始したのは、実に平成14年の槇林執行部の時にさかのぼるそうである。以後毎年のように市長要望に盛り込まれたが、平成25年の耐震診断の結果で建て替えは喫緊の課題となり、医師会館との合築案など紆余曲折を経て、このたび尼崎市が単独で市役所南側に整備し、おかげさまで長年にわたる医師会の要望が叶い、大変立派な急病診療所を整備していただいた。
新施設は、延床面積1032㎡の鉄骨造平屋建てで、一般外来部分として内科・小児科がそれぞれ3室、眼科2室、耳鼻咽喉科2室の診察室が整備された。さらには、救急処置室、調剤室、授乳室が新設され、トイレや事務室、医師控室なども拡張・整備された。診察室裏にはスタッフ専用通路を設け、患者との動線を切り離しスタッフの安全も確保した。また、従来から大きな問題となっていた狭隘な待合スペースについては120席に増設され、キッズスペースも設置、駐車場についても市役所駐車場を利用することにより年末年始やGW期間中の駐車場問題の解決が図られた。
新・休日夜間急病診療所には今までにはなかった3点の大きな特徴がある。
一つ目は、尼崎「市立」休日夜間急病診療所で、医師会が「指定管理者」として運営を担っていくことである。指定管理者制度とは、自治体が条例と議会の議決を経て、公の施設の管理運営を医師会などの団体や民間事業者に委任できる制度である。指定管理者は自らの責任で運営することになり、ノウハウを活かした効率的・効果的な運営やサービス向上が求められるため、モニタリングや評価、決算報告、外部監査が実施される。このため、医師会としての責任は従前の財団との委託契約の時より大きくなる。
二つ目に特筆すべきは、未知の新興感染症に対応するための診療環境が新設、強化された事である。新型コロナ感染症においては、待合スペースの確保やトリアージスペース、検査スペースの確保に苦労した。この経験を踏まえて新設された感染症診療スペースでは、感染症患者と一般患者の動線を入り口から明確に分け、複数ある診察室は陰圧として、専用トイレ、専用点滴ベッドも準備した。もちろん、新興感染症の時だけではなく平時の診療にも使用し、無駄のない利用を心がける。
三つ目の大きな特徴は電子カルテを導入したことである。政府の「医療DX推進本部」方針のもと、厚労省は「医療DX令和ビジョン2030」で2030年までに全医療機関で電子カルテ導入を目指すとしている。これを受けて尼崎市でも急病診療所の医療DX化を進め電子カルテを導入する方針が示された。医療情報の即時共有を可能にすることや会計や薬の処方までの待ち時間の短縮も導入目的の一つであった。急病診療所運営委員会でも、自院で電子カルテを使用していない先生や、他社の電子カルテを使用している先生方の操作に対する不慣れさや戸惑いが、そのまま出務辞退につながるのではないかと懸念する声が大変大きかった。しかしながら政府の方針、時代の流れに従い、この機会に電子カルテを導入することを承諾し、初見の出務医師でもなるべく簡単に操作入力できるように、各医会の先生方の全面的なご協力のもと準備を進めたつもりである。
さらに、新しい診療所は、尼崎市の肝いりで災害時にも強い設計が意図された。災害時でも運営を継続できるように、非常用発電機やオイルタンク、受水槽などが設置され、発災後72時間にわたる機能維持が確保された。また、新たな診療所では、市の公共施設として初めて「ZEB Ready」の認証を取得した。これは、省エネ技術を活用し、エネルギー消費量を国の基準より50%以上削減した施設に付与されるもので、これによって持続可能な医療を推進することができる。
このようにして何もかもが新しい急病診療所のスタートであったが、9月3日に院内のネットワーク配線工事が未実施となっていることが判明し、種々の手続きに時間を要したため工事の終了が10月20日となった。電子カルテや診療予約システムの設置工事はそれ以降となり、会員のための内覧会では本番環境で電子カルテを体験してもらうことがかなわなかったうえに、検査機器、診療待ち表示システムとの連携は開院の二日前に行われる事態となり、業務フローを確認するための受付や看護師、薬剤師の事前練習は3回とも本番とはほど遠い状況での実施となった。開院直後に3連休を迎えるにあたり、限られた準備期間の中でのスタートとなったが、スタッフ一同が協力し、指定管理者としての円滑な運営に向けて力を尽くした。
11月1日の16時にはいよいよ診療がスタートした。この日は18時から耳鼻科診療もあり、翌2日には4診療科が揃って診察を開始した。インフルエンザは例年になく早い流行を迎えており、初日から、感染症スペースを使った水痘患者の診療や、二次病院への転送があり、翌日には救急車の受け入れもあった。広く作った待合スペースはほぼ満席となり、受付スタッフ、看護スタッフは普段よりも増員体制で3連休に対応した。幸い大きな支障なく連休を終えることができたが、確認された課題については、今後通常診療を行いながら順次改善を重ね、年末年始に向けてより円滑な運営を図っていく。
昨今の物価上昇、工事費用、人件費高騰の折、このような診療所を完成させていただいたことを、松本市長をはじめ市の関係者の皆様には改めて感謝申し上げます。運営を任された尼崎市医師会として、市民の安心安全を守るため、一次救急の責務をしっかりと果たすために、これからも精進して診療にあたっていきましょう。皆様、どうぞ宜しくお願い致します。
1.科目別受診者数
1日(土) 2日(日) 3日(祝・月) 合 計
内 科 38 78 79 195
小 児 科 28 105 89 222
耳鼻咽喉科 10 46 52 108
眼 科 ― 8 8 16
合 計 76 237 228 541
発熱患者数 301名 covid19 11名 インフルエンザ 200名(A型191 B型9)











