「令和4年度保健懇談会(社会福祉協議会との懇談会)」(第639号令和5年3月1日)

令和4年度保健懇談会(社会福祉協議会との懇談会)

 

令和5 年2月2日(木) 於:社会福祉協議会館
尼崎市医師会 公衆衛生担当理事 髙橋 洋二

 

 

1. 開会あいさつ
・ 司会の林様:この保健懇談会は地域で安心して暮らせるようにお互いに協力しあい、医師会による地域と保健と医療、そして尼崎市における社会福祉協議会による連携の重要性のご理解を深めていただければと開催しております(今回はコロナ禍のため3年ぶりの開催)。
・ 尼崎市社会福祉協議会理事長 松原 一郎様:数年前の保健懇談会で促され、大腸内視鏡検査を受けました。
・ 尼崎市医師会 髙橋 洋二:5月8日からコロナが5類へと変わります。尼崎市医師会は今まで同様、皆様と一緒に皆様の健康増進に努力します。
(出席者:社協9名、一般の方19名、医師会9名、計37名)

 

2. 講演
・司会 尼崎市医師会公衆衛生委員会副委員長 長谷川 吉昭先生
( 1 )「たかが便秘、されど便秘」
山口内科整形外科院長 大西 良輝先生

医政委員会からのお知らせです。マイナンバーカードでできることは、個人番号を証明できる、1枚で本人確認ができる、証券口座開設など民間のオンラインサービスで使える、コンビニで住民票の写し等の公的な証明書を取得できることなどです。このカードを健康保険証として利用するメリットは、顔認証で自動化された受付(簡便・待ち時間短縮)、窓口での限度額以上の医療費の一時支払いが不要、正確なデータに基づく診療・薬の処方が受けられることです。問題点は個人情報の漏洩の危険があること、災害時や停電時等には利用できないことです。
便秘の定義は「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」のことで、毎日出ていても十分量でない、排便困難感や残便感があれば便秘です。便形状の評価はBristol便状スケールが世界的基準です。便秘は女性の病気と思われがちも、高齢になると男性の便秘も増加します。80歳以上は男女差はなく、80歳以上の1 割は便秘症です。高度便秘の人は、排便時のいきみ→急激な血圧上昇→心不全・心筋梗塞・脳卒中を起こしやすいと言われています。
便秘の原因が他の病気(糖尿病、甲状腺機能低下症、低カリウム血症・高カルシウム血症、脳梗塞・パーキンソン病等)であること、今飲んでいる薬(抗うつ剤・向精神薬、パーキンソン病治療薬、麻薬系鎮痛剤、咳止め等)のこともあります。「たかが便秘」と放置すると、大腸がんができていることもあります。便秘症に対する大腸内視鏡検査の適応は、50歳以上で大腸検診歴がない、便の直径の変化、血便、鉄欠乏性貧血、体重減少、腹部膨満の方などです。
便秘解消の生活習慣は以下の通りです。脱水にならない程度の水分摂取で十分であり、摂り過ぎは頻尿になるだけです。ウォーキング等の適度な運動後のリラックスが大切で、腹筋や横隔膜を鍛えることも重要(座位でしゃんとした姿勢をとり、お腹をへこませて息を止める!と腹横筋が鍛えられる)です。西洋かぼちゃ、大根、納豆、トマト、キウイフルーツ、バナナ等の水溶性食物繊維、適度な油分もよいとされています。毎朝、便が出なくても1 分だけでもトイレに座る習慣をつける、「ロダンのポーズ(結構、前屈み)」で!5分以上はトイレにいないようにしましょう。
生活習慣で便秘が改善しないと薬による治療を検討します。便秘治療薬には刺激性下剤をはじめ数種類あり、近年新しい薬も増えています。注意点は、刺激性下剤(センノシド・ピコスルファート)の連日服用は習慣性・耐性があり頓服が適切です。酸化マグネシウムは胃酸と反応することで効果を発揮するので、制酸剤を服用の方は効果が減弱します。またビタミンD製剤(骨粗鬆症治療薬)はマグネシウムの吸収を増加させるので、高マグネシウム血症、高カルシウム血症に注意です。
大腸内視鏡検査前に大腸をきれいにする下剤を飲むことが苦手な方のために、当院では胃カメラ検査の時にこの下剤を胃カメラから流し、その後に大腸の検査を行う方法も行っています。

 

( 2 )「100歳まで健康でいるために!フレイルから骨粗鬆症まで」
もりもと整形外科院長 森本 佳秀先生

平均寿命は「0歳における平均余命」で令和元年、男性81歳、女性87歳。健康寿命は「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」で平均寿命と約10年の差があります。この間、健康とも言えないけども介護はまだ不必要な時期をフレイル(虚弱状態)と言います。身体的フレイルは筋力低下、低栄養、社会的フレイルは閉じこもり、社会的交流減少、精神的フレイルは認知機能低下、抑うつでこれらにより虚弱となります。フレイルの中で運動器が衰えて移動機能が低下した状態をロコモティブシンドローム、さらに加齢や疾患により筋肉量が低下した状態をサルコペニアと称します。
今回は身体的フレイルの体重、歩行速度、握力に着目しました。半年で2-3 kgの体重減少は注意が必要で、健康にやせていくことが重要です。自分の筋肉量が適切かどうかの簡便な評価をご紹介します。両手の人差指と親指でわっかを作り、そのわっかでふくらはぎが掴めるかどうかです。掴めない場合はサルコペニアの可能性は低く、ちょうど掴めるのは普通と、隙間ができるのはサルコペニアの可能性が高いとします。食事のポイントはタンパク質を摂ることで、朝・昼・晩のすべてで肉や卵などを摂取することです。歩行速度は、早く歩ければ歩けるほど長生きする研究結果があります。75歳の歩行速度が1.1m/秒なら男性は11年、女性は16年長生きです。良い歩き方は、少し遠くを見る(下を見ない、つまずかないように注意して)、踵から足をつく(ペタペタ音がしない)、つま先で地面を蹴る感じで、1 日5,000歩( 1 度でなく分けて歩いてもいい)が目安です。
骨折の危険性があがる因子は、握力低下(女性で握力22kg以下)、BMI低下(BMIが低いほど、やせている人ほど)、飲酒歴(飲酒習慣がある人ほど)、生活習慣病などです。サルコペニアは女性の場合、握力18kg未満となっており、ペットボトルを開けるには握力は12kg以上必要と言われています。握力を鍛えるにはハンドグリップ、パワーボールがあるがタオルを絞る!ことも効果的です。
介護が必要となった原因の12%が骨折・転倒です。簡単に骨折する骨脆弱性骨折には脊椎圧迫骨折、上腕骨近位端骨折、橈骨遠位端骨折、大腿骨頸部骨折があります。骨脆弱性骨折があれば、骨密度検査で問題なしでも治療が望ましいと考えます。1 回骨折すると何度も骨折しやすくなります(ドミノ骨折)。骨折前から骨密度検査をすべきです。できれば腰椎と大腿骨で骨密度を検査することがとても有用です。当院ではこの正確な骨密度検査が可能です(計測時間5分、結果即日、費用1 割負担で450円)。骨密度は年々変化しますので、定期的な検査が重要です。

 

質問:胃ポリープと大腸ポリープの違いは?
回答: 胃のポリープは胃底腺ポリープと過形成性ポリープがあります。胃ポリープは、がんになることが少ないのに対して、大腸ポリープは腺腫が多く切除することが推奨されています。
質問: 昨年ステージⅠの大腸ガンの手術をしたところ便通がよくなりました。それは何故でしょうか?
回答: ステージⅠのガンであれば、便通には影響はなかったと考えられます。術後に便通がよくなった理由は不明です。大腸内視鏡検査を行っただけでも、術前の下剤の影響かもしれませんが、便通がよくなったとお聞きすることはあります。
質問: 手首の強さを強化するために両手を合わせて思い切り押し合いする、次に自分の両手をつないで思い切り引っ張る。効果ありますか?
回答: 効果はあります。自分の手でもよいし、壁に手を押し当ててもよいし、家事の中で自分ができる運動をつづけてください。
質問:乳酸菌と便秘、骨粗鬆症の関係は?
回答: 腸内環境を整えるという観点からは乳酸菌はよいと思われます。また飲み続けることが必要でしょう。

3 年ぶりの保健懇談会でしたが、生の講演会は講演拝聴も集中でき、質疑応答にも熱が入り、やはりZoomにない満足感がありました。司会の長谷川先生、ご講演賜りました大西先生、森本先生、本当にありがとうございました。