「かかりつけ医について(連載17)」 (第630号令和4年6月1日)

かかりつけ医について(連載17)

 
地域包括ケア・勤務医委員会 委員長 内藤 武夫

 
連載の最後は現在の医療状況をよく理解された上で、多数の患者さんの相談を受け対応されているCOMLの山口育子理事長に「患者さんの立場から見たかかりつけ医について」という視点を中心にご寄稿いただきました。
ご寄稿の内容は広く医師にも患者さんにも読んで頂きたいお話です。是非ご一読ください。
この連載の最後にとてもありがたいお話を頂き、委員会委員一同山口理事長に感謝するところです。

 
認定NPO法人ささえあい医療人権センターCOML 理事長  山口 育子

 
近年、かつてないほどに「かかりつけ医」の必要性が取りざたされています。医療機能の分化が進み、患者は病状に合わせて適切な機能を持った医療機関にかかることが求められていることに端を発しています。特に、症状が落ち着いている慢性期にはかかりつけ医に定期的に診てもらい、入院による専門的な積極的治療が必要になればかかりつけ医から紹介状を書いてもらい、急性期の病院にかかる。そして治療が一段落したら、逆紹介された元のかかりつけ医に戻って経過観察を受ける。それが一般的な現在の理想とされる患者の受診行動なのでしょう。
しかし、“患者”といっても皆が内科的な慢性疾患を抱えているわけではなく、さまざまです。婦人科や耳鼻咽喉科、眼科、整形外科といった単科のみの受診を必要としている患者もいます。診療所の開業医ではなく、地域医療を提供している中小規模の病院が「かかりつけ」の場合もあるでしょう。また、希少疾患や難病などで大学病院を「かかりつけ」にせざるを得ない患者もいれば、まったく持病や症状がなく「かかりつけ医」を持つ必要性を感じていない人もたくさんいます。それだけに、国や医療者が「かかりつけ医」を定義し、患者の受診行動を一定の形に指示するものでもなければ、できるものでもないと考えています。つまり、患者・国民一人ひとりが自分にとって「かかりつけ医」が必要かどうかを考え、必要であればどのような医療機関の何科の医師にその役割を担ってもらうのかを決めることが大切なのです。もちろん、その過程においては、医師と相談したり、共に考えたりすることも大切なことだと思っています。
私は患者・市民から「どのようにしてかかりつけ医を探せばいいのですか?」とよく聞かれます。最近はインターネットの掲示板などを参考にする人も増えていますが、私はあまりお勧めしていません。情報に偏りがあったり、誇張して書かれていたりすることもあるからです。そこで、まずは「自分の選ぶ基準を作りましょう」と伝えています。
と言うのも、「いいお医者さんを紹介してください」と相談してくる人に、「具体的にどのようなお医者さんを“いいお医者さん”とお考えですか?」と聞くと、多くは絶句されます。具体的に”いいお医者さん“をイメージしているわけではなく、漠然としたイメージなのです。
また、医師は別世界に住む人間を超えた存在と思っているのではないかと思うほどに、一般の人は医師に過剰な期待を抱いています。「知識が豊富で、優れた技術を持っていて、性格がよくて、優しくて、説明は丁寧でわかりやすく、顔もスタイルもよくて……」と留まるところを知りません。医師も人間であり、万能人ではない。私たちと同じく、性格はさまざまで欠点だってある、そんな当たり前のことを今一度認識する必要があると私は思っています。
相性だってそうです。ぴったり相性の合う医師を探し出すのはかなり低い確率だと思います。例えば、小学校時代に同じクラスの全員と相性ぴったりだったという人はまずいないでしょう。気の合う仲間はせいぜい3〜4人ぐらいです。まだ性格や人間性が確立していない子どもの頃の同じ年齢で同じクラスのなかでもそれぐらいの確率なのに、大人になって、しかもそう頻度多く会うわけではない医師と相性ぴったりというのは滅多にないことだと思います。
また、女性のなかには女性医師がいいとこだわる人がいます。理由を問うと「優しいから」。私は「あなたの女友だちはすべて優しいですか?」と質すのですが、やはりそれも勝手なイメージからきている漠然とした考えです。もちろん、婦人科など男性に診てもらうのは恥ずかしい、嫌悪感が否めないという人がいるのは理解できますが、本質的に考え直す必要があるのではないかと思っています。
そこで、かかりつけ医を必要としている場合、自分の病気は急性期なのか慢性期なのか。専門医が必要か否か。それらを考えると、どのような医療機関が望ましいのか見えてきます。
そして次に必要なのは、「ここは譲れない」という基準です。例えば「私の病気について治療経験が豊富な医師がいい」「副作用や合併症などマイナス情報を聞いても嫌な顔をせずに説明してくれる医師がいい」「専門医志向は否定されるけれど私はどうしても専門医にかかりたい」「私は病状が落ち着いていて長くおつきあいする医師が必要なので、優しく丁寧に接してくれる医師がいい」など、人によってさまざまなニーズがあるはずです。そのような基準を定めておけば、最初に会った段階で基準を満たしてくれる医師かどうか判断できるのではないでしょうか。
次に、内科的なかかりつけ医候補を探しているのであれば、私は近くの診療所から2~3ヵ所選び、例えば冬季のインフルエンザの予防接種などに利用してみてはどうかと勧めています。まず診療所に電話をして、インフルエンザの予防接種を実施しているか、費用はいくらかなどを確認します。その際の受付の対応が丁寧でホスピタリティがあるかどうかも最初の選別基準です。というのも、きちんとした対応をしている開業医であれば、職員の対応にも気を配っているはずだからです。ただ、その職員の個人的な資質による部分もあるので、この基準が100%有効とは言えないことは注意しなければならないのですが。
そして、実際に予防接種を受ければ、医師の雰囲気や態度などに直に接することができるので、自分の規準を満たしてくれる医師であるかどうかを見分けられます。「この医師をかかりつけ医としてお願いしたいな」と思えば、次に何か具合が悪くなったときに受診すればいいわけです。このように、最終的には直接会って判断することが大切です。そして、その後の関係性においては、患者側も節度を持った受診行動を心がけ、自分にできる努力は何かを考えながら、医師と協働して病気と向き合う意識が必要だと考えています。
今年の診療報酬の改定で、大きな病院にかかるには紹介状がないと患者の費用負担は更に高くなり、紹介割合や逆紹介割合の低い大病院は基本料金が減算されるしくみが加速しました。また、「紹介受診重点医療機関」という新たなカテゴリーも出てきています。しかし、多くの患者・国民はまだ医療機能の分化について、十分な理解に至っていません。そのため「病院に入院した途端に転院の話をされた。追い出すのか」「大きな病院は紹介状がないと受診を拒否される」と被害的な発想で受け止めているのが現実です。どのように医療機能が分化しているのか、それはなぜなのか、患者としてどのような受診行動が求められているのか――まずはそれらの丁寧な説明と周知が必要だと思っています。