阪神小児在宅研修会 (第600号令和元年12月1日)

阪神小児在宅研修会
11・16
副会長 杉原 加寿子
令和元年11月16日(土)午後2時30分より、阪神小児在宅研修会が西宮市医師会看護専門学校講堂で開催されました。新生児医療の進歩に伴い、医療的ケアの必要な赤ちゃんがどんどん在宅に移行しているという現状があります。昨年は尼崎総合医療センターにて、尼崎総合医療センターと尼崎市医師会の共同開催で小児在宅研修会を開催し、医療的ケア児の地域での受け入れを要望したいというお話をお聞きしました。今年はそれにこたえる形で、阪神地域での小児在宅医療の推進を目指して、西宮市医師会と尼崎市医師会との共同で小児在宅研修会を開催することとなったわけです。
開会にあたり、西宮市医師会長の大江与喜子先生からご挨拶をいただき、講演に移りました。最初の講演は、①在宅医の立場からということで、「小児在宅の経験と課題〜増え続ける医療的ケア児にかかりつけ医がどう向き合うか〜」というお話を、長尾クリニック院長の長尾和宏先生から伺いました。次に②小児在宅専門の訪問看護ステーションから「しぇあーどがやっていること」として、訪問看護ステーションしぇあーど、児童発達支援・放課後等デイサービスしぇあきっずの瀧内あや氏に、実際に行われている小児在宅の様々な現場の様子を、症例や映像を通してお話いただきました。お二人のお話は、過酷なはずの小児在宅の現場で、障害のある子どもたちやご家族を支えるための様々な取り組みによって、心温まる素晴らしい時間を共有しておられる様子をうかがうことができ感銘を受けました。最後の講演は③教育講演として、「小児在宅が切り開く地域共生社会」というテーマで、国立成育医療研究センター総合診療部在宅医療診療科医長、医療連携・患者支援センター在宅医療支援室室長の中村知夫先生にお話を伺いました。新生児医療の進歩に伴い、NICUで長期に入院する赤ちゃんは低出生体重児や脳性麻痺の赤ちゃんだけではなく、難病や染色体異常などの先天異常症候群の赤ちゃんが増えていて、医療的ケアを必要としたまま在宅に移る方が増えているという現実があります。この10年で、医療的ケア児は10倍に増え、また在宅人工呼吸器の小児の数は10倍以上に増加しており、この現状を支えるための社会システムの構築が急務となっているわけです。また小児期発症の疾患であっても、医療の進歩により成人期への移行医療が問題となっており、小児科と内科の連携も課題です。これらの課題を解決するには、高齢者を支えるための地域包括ケアシステムと同じ形で、小児在宅や医療的ケア児を支えるシステムを作ることが必要で、今声高にいわれている「地域共生社会」という理念をもって、小児も老人も障害のある人もない人も、すべての人が支えあう社会の実現が望まれるというお話でした。中村先生は新生児医療のエキスパートですが、子どもたちの生活という観点で、「医療モデルから生活モデルへ」ということを実践しておられる小児在宅医療の第1人者として、熱い想いと子どもたちへの溢れる愛に満ちたお話で、小児在宅医療の抱える問題点とこれからの展望について、説得力のあるお話をしていただきました。
その後、「地域が支える小児在宅の展望〜地域ネットワークを考える」というテーマでシンポジウムを行う予定でしたが、時間が押していたためにあまり十分な討論が出きませんでしたが、閉会の言葉を尼崎市医師会長の東文造先生からいただき、3時間にわたる研修会を終了いたしました。医師や看護師、地域連携を担うMSWの方や行政の方など、総勢86名の方にご参加いただき、多職種連携につながる会となったと思います。ご講演いただいた先生方、ご参加くださった方々、本当にありがとうございました。