医療介護関係者・市民対象にハーティホールにて「尼崎市における地域包括ケアシステムの構築を目指して」集会開催(第543号 平成27年3月1日)

(第543号 平成27年3月1日)

  高齢化の進行による社会保障負担の増大を抑制するとの政府方針に基づき、要介護高齢者等の在宅での療養生活を可能ならしめる「地域包括ケアシステム」の尼崎市でのあり方につき情報提供をおこなうため、本会は地域医療連携・勤務委員会が中心となり2月21日午後2時よりハーティホールを満席にする200名以上の参加者を集めて標記集会を開催した。
 永井朝子理事(県立塚口病院副院長)により進行され、開会にあたり黒田佳治会長より「尼崎市では高齢化率がすでに25・6%を超え今後もさらに上昇すると思われる。高齢者らが病気になり入院し病状が安定して退院後安心して在宅生活をおくれるよう医療・介護に係る各職種で支える地域包括ケアシステム整備が急務であり、地域包括支援センターの管内にある会員医療機関の地域ケア会議への確実な参加を目指したい」との趣旨の挨拶があった。引き続いて尼崎市より清水昌好医務監が稲村和美市長の代理で挨拶、昨年の本会市民医療フォーラムでも取り上げた在宅での看取りが市民の希望と相反して実現困難である現状打開のためには各専門職が高品質なサービスをパッケージとして提供できる体制が必要と訴え、市長メッセージを代読した。集会は以下の基調講演・座談会の二部構成で進行された。

基調講演
「地域包括ケアシステム構築のためのマネジメント戦略―郡市医師会への期待―」
兵庫県立大学大学院経営研究科教授 筒井 孝子
(座長:両角隆一 地域医療勤務医委員会委員長)
筒井教授は筑波大学大学院修了後、1994年厚生省(当時)国立医療・病院管理研究所医療経済研究部入職、2000年より厚生労働省統括研究官として福祉サービス分野を担当し要介護認定システムにおけるコンピューターによる一次判定システム開発などの実績がある。昨年4月から現職。趣旨は以下のとおり。
そもそも地域包括ケアにはCommunity based care(地域を基盤としたケア)とintegrated care(統合型のケア)と称した医療介護が統合されたケアの2つの概念がある(後者はさらに生活全般まで対象が拡大されてゆく)。先進諸外国で早くから後者を整備し得た例は少ない。なぜなら日本ほど医療資源が豊富でなかったからである。これら諸外国も急いで病院を整備しエピソード由来の短期的な入院に特徴づけられる急性期状態の患者に対応してきた。しかし高齢化の進行により長期的・普遍的かつ継続的なケアニーズを持つ患者が増加すればケアニーズはパラダイムシフトを迎える。さらに医療技術の進歩による専門性の増大は専門職を多数産み出し、個々のサービス提供者が当該患者の受けているサービスの全体像を把握しがたいという状況を作ってしまう。このような状況はマクロ経済的には費用増高をもたらす。一方、日本人はもともと増税を受け入れにくい国民性ゆえ給付は受益者を特定する選別主義により実施し安上がりに済ますことを常態としてきた。しかし高齢化により社会全体の所得水準が下がれば支出割合が増え財政赤字が累積されざるを得ない。結果的に過去最悪の債務を国として背負うことになってしまったのである。もはや地域包括ケアシステムを実現しなければこれまで投入してきた医療資源が無駄になってしまうのである。
ケアをおこなうにあたり同一機関により急性期入院医療・回復期リハビリテーション・介護等の生活維持期ケアまで提供する垂直的統合と、さまざまなサービスを窓口機関により複数機関を連携させ提供させる水平的統合があるが、双方がうまくリンケージして切れ目ないケアが提供されることが地域包括ケアシステムの本質である。武蔵野市や南砺市は早くから高齢化の進行に伴うサービス必要量の予測を行い成功している例で理想的なシステム実現は自治体(首長)のマネジメント力によるところ大である。
都道府県医療費適正化計画・地域医療構想策定のための病床機能報告制度などは医療資源を集中的に投入するニーズを正確に調査するためのものである。日本の国内総生産の7割、雇用の8割は地域密着型サービスを提供するローカルな経済圏の産業(L型産業)が担っており、東京以外の地方の経済が疲弊しているから中央の大企業の地方誘致が地方再生の切り札であるとか東京にない農林水産業で地方再生を図ろうとかいう誤解は捨て、サービス業たる医療介護を地産地消できるようにするべきである。尼崎市でもきっとやれると期待しているので郡市医師会にもご理解いただきたい。

座談会(パネルディスカッション)
「医療・介護に関わる多職種連携の取り組み」
(座長:夏秋恵・斎田宏 地域医療連携・勤務医委員会副委員長)
まず行政側として豊中市高齢支援課の後藤良輔課長補佐が「豊中市における多職種連携の取り組み〝虹ネット〟」についてお話しになり、当会の朝田真司理事から「認知症サポートネットワーク」について、新藤高士理事から「心不全の病診連携を考える会」についての簡単な紹介があった。その後、今回の集会の共催者である尼崎市薬剤師会・同ケアマネージャー協会・同訪問看護ステーション連絡協議会・尼崎市高齢介護課から一言ずつそれぞれの取り組みなどについて発言があった。詳しい座談会の内容は割愛させていただくが、斎田座長からの「誰がキーパーソンになって事を進めるのが良いですか?」との問いかけを皮切りに、短時間ではあるが有意義なディスカッションがおこなわれたと思う。それぞれの立場で出来ること出来ないことがあるので、お互いが尊重しあい、意識をもって進めていくことが必要であると感じた。筒井教授には「今、皆さんがお話しされているのは各論の話なので、そのやり方では10年かかる。早く進めるのに必要なのは人とお金である。せっかくこれだけの専門家が集まっているのだから、順番を間違えずに進める必要がある。」との厳しい意見をいただいた。
総論も各論も重要であるので、予算・大きな制度設計は行政に任せて細かい各論の話を現場の人間が主導し、尼崎市民にとってより役に立つ地域包括ケアシステムの構築を進めるのが良いのではないかと思われた。
(記録作成 広報委員会委員長 鈴木温・監事 鈴木克司)