第10回尼崎市民医療フォーラム開催(第563号 平成28年11月1日)

第10回
尼崎市民医療フォーラム開催
9・24
尼崎市医師会 医政委員長 横田 芳郎
台風一過の秋晴れの日に、あましんアルカイックホール・オクトにて第10回尼崎市民医療フォーラムが開催されました。「平成のトナリ組(地域包括ケアシステム)は下流老人を救えるか?」をテーマとして、昨年に引き続き、高齢終末期の生活を考える有意義なフォーラムとなりました。

尼崎市医師会理事 杉安保宣氏の司会進行にてフォーラムは開始されました。
尼崎市医師会会長 黒田佳治氏の開会挨拶の中で、日本は国民皆保険制度のおかげで高齢長寿国となったが、今後は平均寿命、健康年齢との差が問題になるので寝たきりにならないよう元気に過ごすようにと呼びかけられました。
来賓挨拶は尼崎市長 稲村和美氏より賜りました。尼崎市制、尼崎市医師会設立がともに100周年であることと、地域包括ケアシステム構築の取り組みについて紹介があり、また生活習慣病が10年前と比べて予防できていると話されました。

さていよいよ第1部、尼崎市医師会理事 八田昌樹氏の司会で始まりました。
「下流老人って何なん?」と題して特定非営利活動法人ほっとプラス代表理事 藤田孝典氏による講演が行われました。藤田氏は埼玉で生活保護や生活困窮支援の在り方に対する活動を行いながら、一億総中流の生活が老後困窮している事例や河川敷に暮らす人々からの相談を受けておられます。

国民の貧困率は16・1%とOECD加盟国の中で6番目に多い数字を示しており、年金が少なく老後貧困になる傾向にあります。現在、高齢者の貧困率は18・0%に達し高齢者の5人に1人は貧困であるといわれています。「下流老人」というのは生活保護基準相当で暮らす貧困高齢者のことであり、日本国内で700万人程に達し今後も増加する傾向です。下流老人の特徴としては ①収入が少ない ②貯蓄がない ③頼れる人がいない の3つがあげられました。そのような高齢者の引き起こした事件例(新幹線自殺、バス事故一家入水自殺)が紹介されました。貧困と孤独が長引くことの惨状に、会場の空気もやや凍りついたかのようでした。日本人は高齢となっても働く人が多いものの、平均貯金は1270万円であり65歳で300万円しかないと4年で底をついてしまい困窮に陥ります。またそれは社会的孤立によって生じるリスクがあると述べられました。独り暮らしの高齢者は20年後には760万人(5人に1人は独居)にまで達します。あらゆるセーフティネットを失った状態が下流老人を生み出すことになるのです。下流化しないためには、医療・介護費がかかる老後に十分な貯蓄・確保をしておくことも大切ですが、高額療養費制度や無料低額診療事業などの制度を利用する事、また、それら制度に関する情報は最寄りの福祉事務所やソーシャルワーカーに相談する事が重要です。プライドを捨て、地域社会へ積極的に参加し「お互い様」の精神で人とのかかわりを持つ(人に頼る)事が大切です。人に頼り、手助けを求める事を「受援力」と言いますが、高齢者はこの力を身につける事が「下流老人」にならないためのノウハウであることを強調されました。

第1部が終わり第2部の準備の合間、今年参議院議員選挙に公明党公認で初当選された伊藤たかえ氏の挨拶、引き続き衆議院議員である中野洋昌氏のスピーチがありました。高額療養費制度の加入などセーフティネットが大切であることや年金の結末が不安であることから、支え合いの社会を作っていく施策について提言されました。
第2部が始まる直前には、「下流老人」の現実的な暗い話を払拭すべく、コラムニストの勝谷誠彦氏の登場で会場が温まりました。ご自身を「下流中年」であると称して会場をわかせたあと、十数年前の福知山線脱線事故の際に尼崎市医師会の活躍が素晴らしいものであった事や、外国では老人になることが難しいのに日本は当たり前のように長生きできている事など、また尼崎は行政が良いため医療・福祉が豊かである事と本日のフォーラムに参加された方々に対して意識が高い事を絶賛し、次に行われるシンポジウムへと繋いでいただきました。

第2部は尼崎市医師会理事 新藤高士氏、八田昌樹氏による司会進行の下、シンポジウムの形式で行われました。

シンポジスト
中野洋昌氏(衆議院議員)
藤田孝典氏(特定非営利活動法人ほっとプラス代表理事)
寺沢元芳氏(尼崎市健康福祉局福祉部包括支援担当課長)
北村浩子氏(尼崎市ケアマネージャー協会会長)
中川純一氏(尼崎市医師会理事・認知症サポート医)

コメンテーター
勝谷誠彦氏(コラムニスト)

新藤氏よりシンポジストの方々の紹介があり、先ず寺沢氏からは市役所窓口での申請業務や地域包括ケアシステムについて説明がありました。北村氏はケアマネージャーの立場から、客観的に下流老人に見えても本人はこれで幸せと感じている高齢者もいると述べ、中川氏は医師の立場から、病気を診るのではなく人を見ることの大切さ示し、地域包括ケアの重要性を述べられました。そこで、八田氏より地域包括ケアシステムに関して地域医療構想も含め、国は地域にまかせる動きがあるのではないかという問いに対し、中野氏は、今後は国も医療と介護の受け皿を考えていく必要があるとの見解を示されました。すると即座に勝谷氏より、かかりつけ医が地域医療を担うべきで、例として昔の開業医の待合室が地域の高齢者のたまり場であり支え合うことができたと話されました。「行政がやろうとするとやたらと個人情報・・・というのが先にくるので、やはり地域住民が行うことが大切ではないか」と意見を述べると、中野氏は「例えば災害時に個人情報を出すのが・・・」と。すると勝谷氏は「やはり尼崎は地域全体で手助けをすべきだ」と表明、その後もお互いのディスカッション(言葉のキャッチボール?)が大変興味深いものとなり、会場からは拍手がわいていました。
藤田氏は「受援力」を高め、無理やりデイサービスに参加させるのではなく、好きな場所で人とつながりを持ち助け合うことが大切であると、また北村氏も「支援」という言葉は上から目線であり、「寄り添い」が大切であること、そのためには地域住民の助けが必要であると述べられました。それに対し寺沢氏は、尼崎市において見守り安心事業、いきいき100歳体操などを地域主体で行っており、誘いあって参加することでふれあいの形がとれていると話されていました。また生活保護に関する問題点もあげられ、条件を満たす人は地域で薦めて受給させる事が必要であると述べられました。また中野氏も、生活保護になる前のしくみを考えているとのコメントを提示し、さらに少子化問題にも触れられました。
「老後は悠々自適ではないのです。老後は病気になるという意識を持つことが大切で、自分たちに何ができるか考える必要があり、下流にならないためには人とのつながりを持つことが重要です。」

第1部で「下流老人」という衝撃的な言葉に意気消沈した会場の雰囲気も、第2部が終わる頃には下流化しない対策を理解することで愁眉を開くことができました。

最後に尼崎市医師会副会長 東文造氏の閉会挨拶の後、閉会となりました。

フォーラムにご参加いただいたすべての皆さま、ご講演をいただきました藤田氏、シンポジストとしてご参加いただきました勝谷氏、北村氏、寺沢氏、中野氏、またご協力いただきました先生方、尼崎市医師会関係者の皆さま、誠にありがとうございました。