副会長所感 動き出した地域医療構想(第545号 平成27年5月1日)

(第545号 平成27年5月1日)
副会長 橋本 創

高齢化による疾病構造の変化に伴って医療の提供体制も変えていかなければならない。これを進めるために国は2025年に向けて地域の医療提供体制を再構築するための設計図ともいえる「地域医療構想策定ガイドライン」を3月末に公表した。実施主体は都道府県である。兵庫県も4月からガイドラインに則って策定計画を開始した。まず策定する圏域を定めなければならない。原則二次医療圏とされているが人口規模や患者の流出入状況を勘案しつつ決定してよいとされている。尼崎市は阪神南医療圏に属しているため西宮市、芦屋市とともに計画が進められることになる。一方で阪神北医療圏は伊丹市、川西市、宝塚市、三田市そして猪名川町から構成されている。両圏域間での患者の流出入は多く、「むこねっと」の二次救急システムや患者情報共有システム、がん診療連携も阪神圏域全体で動いている。一体となっている阪神圏域において阪神南と阪神北に分断して計画を進めていくことは効率的な医療提供体制に逆行するものであると考える。
 昨年の秋に全ての病院は「高度急性期」「急性期」「回復期」「慢性期」からいずれかを選択する病床機能報告を義務づけられた。地域医療構想ではこの4類型別に病床数が決定される。圏域ごとの病床数はレセプトデータやDPCデータから割り出される2013年時点の医療機能別の入院受療率をもとに将来の人口動態を踏まえて算出される。高度急性期から回復期までの医療需要は入院基本料とリハビリテーション料を除外した患者一人一日あたりの医療資源投入量に着目し高度急性期は3000点以上、急性期は600点以上3000点未満、回復期は175点以上600点未満と線引きされた。病院には個別にデータが渡される予定でありデータを見て自院の機能を自覚しなさい、データに見合った医療機能を選択しなさいという無言の圧力がかかることになる。国の意図しているところは急性期病床の削減であることは明白である。
 残る「慢性期」に関してはさらに厳しくて2025年の療養病床数の目標値が定められることになった。療養病床の入院受療率は都道府県により最大の高知県が614に対し最小の長野県は122と約5倍の差がある。それを2025年には全国一律に平均化しようとするものである。目標を全国平均に収斂させていくのか最も低い県の入院受療率まで収斂させていくのかは今後の検討を待つところであるが病床削減の方向は変わらない。ちなみに兵庫県の療養病床の入院受療率は223と全国平均の213をわずかに上回っている。削減された病床はどこにいくのであろうか。ガイドラインでは在宅療養を慢性期機能に含んでいるところから介護施設に誘導されるのでは推察している。
 この計画はまず二次医療圏ごとに開催される圏域別地域医療構想調整会議で検討される。阪神南圏域での会議には3市の医師会代表、公立病院代表、民間病院代表、兵庫医大ならびに行政が参加する。各圏域の協議内容は県が主催する地域医療構想調整会議に集約され数回の協議を経た後に27年度末には各機能別の病床数が決定される。地域医療構想の実現に向けた病床再編は医療機関の自主的な取り組みや医療機関相互の協議によりすすめるのが基本とされている。協議が不調に終わった場合、知事は過剰な病床機能への転換の中止を命令する権限が与えられている。
 この地域医療構想は病院とりわけ規模の小さい民間病院にとっては死活にかかわる重大な関心事である。診療所の先生方は直接的には影響は及ばないかもしれないが地域医療に与えるインパクトは大きく今後の動向には関心を持っていただきたい。