産業医研修会 職場におけるうつ病対策 (第555号 平成28年3月1日)

産業医研修会
職場におけるうつ病対策
ー最近増えている若者の新型うつ病を中心にー
2・13
産業保健委員会 尾上 正浩
精神神経疾患は産業医だけでなくかかりつけ医であれば必ずといっていいほど遭遇しうる疾病である。また精神科専門医以外であれば直接的な訴えはきかないにしてもその兆候を見逃しているかもしれないし、疑わしくてもその後の措置についてなす術を持たないことがある。今回はそんな専門医以外を対象にほくとクリニック病院の深尾晃三先生にご講演いただいた。
最近「新型うつ病」のまえに、定形的なうつ病について説明をされた。
自殺者数は完全失業率と相関性があることや、近年自殺率は低下しているが若年層のそれは低下していないこと、壮年も高齢者のいずれの年齢層でも依然として高いことをデータは示している。またうつ状態、うつ病が増えている理由の一つがSSRIやSNRIの抗うつ薬の処方の問題も一つに挙げられた。このことから「うつ病」は経済的、政治的な動向に大きく影響を受ける疾患であることが伺える。
また「うつ病」は精神症状と身体症状がみられる。先ほど述べたように身体症状の訴えを一般臨床医家の我々が先ず診る機会も多いと思われる。睡眠障害、食欲不振、性欲減退、消化器症状、全身倦怠感、頭痛、胸部不快感等々の症状である。
さて(定形)「うつ病」の基本的症状の説明を受けたうえで(新型)「うつ病」である。これは正式な病名ではない。その特徴は若者に多い、他罰的で人のせいにする、1日10時間以上の睡眠(定形うつは睡眠障害、早朝覚醒)、わがままと誤解されやすい等々。病名の混乱のひとつには不安障害や適応障害、パーソナリティー障害、発達障害、自閉症スペクトラム障害といったものが入っていることで混乱が生じているということである。従来のうつ病は人格水準の高い人がかかりやすい、つまり成熟した人格をもつひとが過剰適応の結果生じる疾患である。しかし新型うつ病は過剰適応がなく、すぐにうつになる。うつ病であることは違いないが、従来の薬剤の効果も効きにくいといった特徴をもつ。これは専門医でなければその診断は困難だ。また(新型)「うつ病」の治療的対応は安易なうつ病の告知はかえって転帰不良にさせることや周囲は病気を理解しつつ過保護にしない、批判は禁物だが患者に合わせ過ぎないとか「適度にほめる」、医師も家族も「嵐の中の灯台のように動揺せず」はまるで中二病(思春期真っ只中のややこしい一時期の総称)の子供への対応である。奇しくも堀尾先生は「本来、家族内で行うべき社会教育を会社が行うのもどうかと…」と仰られた。
未来を担う若者は社会にとって宝である。そう考えると社会全体でこの新型うつ病を考えていく必要がありそうだ。